胸のフィルムを焼き切って

欲張りオタクの徒然草

非対称なふたりのおはなし。~舞台「LUNGS」に寄せて~

どうも、はてブご無沙汰しております、あゐりです。
先日、担当しているアイドル・ジャニーズWEST神山智洋さん主演の舞台「LUNGS」を、東京グローブ座にて観劇してきました。「アシタを忘れないで」以来4ヶ月ぶりのグローブ座、たのしかった〜!今回はご縁に恵まれて3週間弱の東京公演のうち4回観劇することができたので、高2までの毎週のように観劇をしていた頃を思い出しました。やっぱり観劇という行為が好きだなあ。
というわけで、LUNGSのネタバレ込み込み感想と、そこから自分が考えたことをまとめていこうと思います。


………とは言ったけど、この舞台を綺麗な言葉でまとめるの無理じゃね?????(放棄)

「放棄すな」「放棄するならブログを立てるな」等のお叱りの言葉が飛んで来そうですね。ご最もなんですが、しかしこのLUNGSという舞台、あまりにも「人間の綺麗なところも醜いところも高潔な理想も低俗な欲望も全部全部ごちゃ混ぜにした、突飛でもなければありふれたとも言いきれないふたりの半生」が過ぎるんですよ。壮絶と言うにはちっぽけで、ありふれたと言うには残酷な運命に振り回されたりする。

えっ…?結局何が言いたいんですか…?

お答えしましょう。分かりません。お恥ずかしいことに、ブログを綴っている現在の時点でこのブログの着地点が全く分かりません。いや見切り発車も大概にしろや。

…とりあえず脚本や舞台の外枠とあらすじをざっと、この後のパートを読む際に疑問点が生まれない程度に書いていきますね!



英国を、そして現代を代表する劇作家の一人であるダンカン・マクミラン氏による脚本「LUNGS」。既に海外で多数上演され「現代戯曲の最高傑作」との呼び声も高いこの脚本が、ジャニーズWESTに所属する神山智洋くんと女優の奥村佳恵さん、そして演出家の谷賢一さんの手によって初めて日本で上演されました。

とりあえず公式サイト貼っ付けますが、私の怠惰によりこのサイトがクローズされるのが本ブログアップ当日、2021年12月31日となっております…!はよブログ書いとけやホンマ…!

www.lungs.jp

 

この作品は、素舞台で上演されることを想定している。背景も、家具類も、小道具も一切なく、マイムもしない。衣装替えもしない。照明変化や音響で、時間や場所の移動を示すことも行わない。(戯曲ト書きより)

 

『LUNGS』は、舞台セットや音響、照明などに頼らず、二人の俳優、演出家をはじめとするクリエーションチームの想像力、そして観客の想像力のもとに創り上げられる作品です。(舞台「LUNGS」公式サイトより)

 

小中高の部活動とはいえ、10年弱の舞台経験がある私はこの文章で震え上がりました。こんなに役者の技量が試されるシチュエーション、ない。
実際は円形の舞台が客席に飛び出す形で組まれていたり、観客の感情を煽る音楽や照明効果があることにはあるのですが、とにかく役者は100分間動き続け、会話をし続けます。「役者なら一度は経験したい」と語る俳優は多いけれど、演劇人寄りのパンピである私として絶対にやりたくない。本当にやりたくない。仮に担当・神山智洋さんと共演できるオプションが付くと知った上でオファーがあったとしてもギリ「受けたくない」が勝つ。だって、何も誤魔化せないから。舞台上で会話のピッチャーとキャッチャーになること以外許されず、観客の目全てが舞台上の2人だけに注がれる。これがどれだけ神経をすり減らすか。これをやり切れる人が日本に何人いるか。私は絶対にそうはなれない。心の底から、この舞台33公演を完走した神山くんと奥村さんを尊敬しています。

このブログを開いた方の多くがご存知でしょうとは思いますが、この舞台は2人芝居です。この2人の氏名の描写は脚本になく、日本語版脚本において2人はお互いのことを「君」「あなた」と呼びます。以下、神山くんが演じた男性を「M」(Man)奥村佳恵さんが演じた女性を「W」(Woman)と表記します。

↑まずここから語りたい。(早い)
神山くんも奥村さんも、谷さんもブログやTwitterでMのことをM、WのことをWと表記したのでこの表記を使っています。恐らく台本もM・W表記です。(ぼんやりとした写真がパンフレットに載っていた、FかWかと聞かれたらたぶんWかなという感じ)
だがしかし、舞台のポスターやフライヤー、公式サイト等の宣伝美術には「M」と対立する概念として「F」が置かれている。「F」は言わずもがなFemaleのことですし、Femaleに対立する「M」は同じMでもManではなくMaleになりますね。一応解説すると、Womanが社会的な性・ジェンダーとしての女性を指すのに対し、Femaleは生物学的な性・セックスとしての女性、荒い日本語で言えば「メス」を指します。
なぜここに齟齬が生まれたのかは日本版LUNGS制作陣のみぞ知る…というところなので何とも言えないのですが、ジェンダー論を全く齧っていない筆者によるこのブログに限っては、FだろうがWだろうがどちらでも問題はないと判断した上でM・W表記でいきます。俳優陣が使っていた表記だし、何となくWomanのほうが名詞として使われているイメージがあって、役の名という感じがするし(もちろんどちらにも名詞・形容詞の用法があるのは承知しています)(筆者の知識は語学的な方向に偏っているのでその観点からの話ばかりになっています。すみません)

ここで色でも使ったほうが見やすさはあるのかもしれないけれど、舞台へのリスペクトも込めて青やピンクといった色は使わず太字にしました。頭の中がLUNGSに支配されている私としてはほんとうはも良いなと思ったけれど、未観劇の方に「で、出~~~wwwむやみやたらに自担カラー使いたがり奴~~~www」とか思われそうなので止めます()

 


………まだあらすじに入ってないのにこんな文字数(2,000字超)になってしまった。何万字書くつもりなんだ。いよいよあらすじです!

もちろんネタバレしかしておりません。

今ならブラウザバック間に合います。もう大千穐楽もとっくに過ぎておりますが、ネタバレとかお断りだから!という方はここまでで…!

 

 

 

 

舞台は2021年よりきっと少し先の未来。温室効果ガスがもたらす異常気象が起こりつつある地球。とある先進国、もしかしたら日本かもしれない。

MとWは同棲中のカップル。結婚はまだしていない。

 

ある日、MはWにふたりの赤ちゃんを作らないかと話を持ち掛ける。この言葉に驚いたWの「赤ちゃん!?」というセリフから、舞台が始まる。

 

MはWとの子供を作ることに対してやや楽観的で、そしてとても積極的。一方Wは、子供を作ることが「人生における私の目的だし、地球に対する私の役割」であると捉えつつも、自身が環境に関わる研究をする大学院の博士課程に属していることもあり、「本当に地球のことを考えているのなら、子供は作らない」とまで考えてしまう。

「5年間毎日飛行機でニューヨークまで行って帰ってきても、その二酸化炭素の排出量って子供一人持つより少ないの。1万トンのCO₂。それってエッフェル塔の重さだから。私エッフェル塔を生むことになるんだ。」

(後のWのセリフ。パンフレットに載っていたものを引用)

ちなみにMは売れないミュージシャン。音楽関連のフリーランスをしている。

IKEAで、車中で、家で、MとWはこの話をするが、なかなか結論は出ない。次の水曜日に二人はクラブに行き、その帰りに突然Wが、子供を作る決心をしたとMに伝える。

帰宅した二人はセックスをしようとするが、欲情したMにWは怯え、子供を作ることにも尻込みしてしまう。

翌朝、Mは断られた気まずさを孕みながらも、Wに「(子供が吐き出す二酸化炭素を吸収するための)木を植えよう」と提案する。

Mが自分なりに子供を持つことについて考えて、同時に不安を抱えていると知ったWは、次第に子供を作ることに前向きになっていく。Mに定職に就くことを求め、Mは大企業に就職する。

Mは自分なりにWの話す内容を理解しようと、Wが出した本やWがリツイートした論文を読んでいた。環境についての企画を会社で提出するようにもなっていたのだ。

しかしまさにその企画の会議をすっぽかし、Wと公園のトイレでセックスをしてしまう。

 

ある日、Wはしばらく生理が来ていないことに気付く。妊娠検査薬を使用したところ、結果は陽性であった。

 

どちらの両親に妊娠を伝えるかで軽く揉めるなどするも(二人はお互いにお互いの両親のことを嫌っていた)、二人は概ねその事実に喜びの感情を抱いていた。

MとWは子供部屋を作るなど、子供を持つための準備を進めた。(この子供部屋をWが真緑にした、というのが先ほどのお話の元ネタです。Wが「ピンクとかブルーとか黄色は嫌だったから」と言っていたので)

 

しかし喜びも束の間、Wが身籠ったMとの子供は流産してしまう。

 

二人は、特にWは憔悴しきっていた。Wに対して明るく振る舞おうと努めるMも、Wがあまりにも落ち込んでいることを感じ更に辛くなってしまう。Wは、「私たちは一緒にいるべきなのか」とMとの交際自体をも考え直そうとする。

そんな日々が続く中、Mは会社で派遣社員の女性とキスをしてしまった、とWに報告する。激昂したWは「私たち、子供いなくてよかったね!」を捨て台詞に、Mと別れる。

 

 

数年後。Wの母親が亡くなり、Wは久々にMと連絡を取り、再会する。地球環境はどんどん悪化していた。

二人はそれぞれの近況を話し、その流れでまたセックスをしてしまう。この時点で、既にMには先ほどの派遣社員とは異なるパートナーがいた。

 

そしてWはMの子供を再び身籠る。Mはもうすぐそのパートナーと結婚する予定だったが、Mの元カノ(W)の妊娠を知ったパートナーは激怒しMを振る。

WはMのだらしなさに呆れ彼を罵るが、二人は言い争いながらも、結婚しこの子供を生み育てることを決意する。

 

以降、出産と子供の成長が(これまでよりずっと)断片的に描かれる。MとWは次第に老いていく。Mが先に帰らぬ人となり、Wも生涯を閉じる。

 

 

 

…あらすじ、こんなところだろうか。後半がスカスカすぎると言われそうですが、実際こんくらいのスピード感に思いましたよ???(リスクヘッジ)

 

もうさ、何から書いていいかわかんないのよ。そんな状態でよくブログを書こうと思ったなと自分で自分をはっ倒したくなるけど、これは本当にそうなのよ。感じたことは洪水のようにあって、それをなんとか言語化したいんだけれど、例えばTwitterの140字で感想をまとめろとか言われても無理。綺麗な言葉でまとめられない。「推しの舞台行ってきたんでしょ???どうだった???」と幾度となくリア友に聞かれたけど、「凄くて、しんどかった……………」しか言ってない。あまりにも語彙が終わっている。

 

何万回でも言うけれど、この舞台を演じきった神山くんと奥村さんは本当に素晴らしいし、谷さんの演出も非常に効果的で魅力的だった。スタッフ陣の皆様も含め、彼らが創り出した「LUNGS WORLD」に私たちはいざなわれ、引き込まれた。私が観劇した中ではすべての回でスタンディングオベーションがあったし、「いやそりゃあみんなスタオベしたくなるよな」と思った。それが「凄い」の部分。

 

そして、オタクとしても、ひとりの女性としても、この舞台はとってもとっても「しんどかった」。いい意味でもよくない意味でも。

 

もうあらすじ説明して大体ストーリー把握してもらったし、もうここからは「文字数制限のないTwitter」の如くほぼ箇条書きで思ったことをだらだら書き連ねていきたい。自分の備忘録も兼ねています。

 

 

私は19歳女子。大学1年生で、とある外国語を専攻している。大学を卒業したら院には進まずに就職しようと思っている。母と弟と一緒に母方の祖父母の家で暮らしており、母の兄も含め6人で暮らしている。父親の顔は覚えていない。

大学までずっと公立の学校に行ってくれと母に言われて育ち、今も国立大学の授業料をなんとか払っている状況。大学まで行かせてもらっていることにはただただ感謝しかないが、だからこそ私自身は子供を持ちたくないと思う。経済的に子供を困らせてしまうだろうから。「私と同じ思いをさせたくない」なんてあまりにも母に失礼だけれど、優しくて経済力のある人が私を好いてくれるなんてシチュエーションでもなければ結婚したくない。子供も欲しくない。今は本気でそう思っている。母より先に死にたくはないし、弟が私を看取ってくれんかなと思う(笑)現実世界では全然恋愛体質ではないし、彼氏いない歴イコール年齢。あんまり自分の恋愛的なサムシングに興味はないが、強いて言うならヘテロではある。神山くんを含めジャニーズに2人担当がいるが、俗に言うリア恋オタクではない。と思っている。自分を「○○系オタク」とカテゴライズするなら、神山くんに対しては「生き様大尊敬崇拝系オタク」だなあと思っています。

 

…急に自語りすみませんが、「こういう人間が今ブログを書いてるんだよ」というご説明です。この舞台、自分が育ってきた環境だとか、子供を持つことに対するモチベーションだとか、セクシャリティだとかによってきっと感想が大きく変わる。多分日頃神山くんをどう捉えてるかによっても変わってくる。このブログはあくまで「子供欲しくない19歳女子大生あゐりが、LUNGSを観て考えたこと」にすぎません、という注釈。です。

 

もういい加減引っ張るなよってね!ここまで引っ張るほど読み応えのある文章じゃねえよってね!

 

 

 

「LUNGS」というタイトル。言わずもがな「肺」を表す英単語の名詞、ちなみに複数形です。

なんでこのタイトルなんだろう。そもそも肺の構造がピンとこない。(筆者はド文系、国立大学を受験したのに理科系科目を一切勉強しませんでした)(大学がバレる)

というわけで「肺」でググりました。このワードでググったら製薬会社のわかりやす~い解説HPがトップに出てくる、という知識を得ました。たぶん肺をググってる神山担、私くらい。

www.chugai-pharm.co.jp

このサイトにある図を見てもらったらわかるんだけど、肺って非対称なんです。簡単に言うと左肺が2層構造なのに対して、右肺が3層構造。私、肺が非対称なの知らなかった。知らなかったけど、私的千穐楽の公演が始まる前に、既に購入したパンフレットの表紙をジッと凝視して「なんか左右対称じゃない気がする…向かって左側(右肺)が膨らんでるような…」とは思っていた。マジで。嘘じゃない。パンフを開かず表紙だけを眺めていた観客をグローブ座で見た気がしたら、それ私です。

 

「非対称」と言われると、なんだかMとWに重ね合わせたくなりませんか? 私はなりました。

W「"あなたは"話をしてるわね!」M「"二人で"話をしてるんだ!」という序盤の言い合い。二人の社会的立場、言ってしまえば学力の差。そして何より、子供を持つというシチュエーションにおいて、Wだけが子宮を持ち、Wだけが十月十日お腹に命を宿す。

「完全に対等」なんて夢のまた夢。どちらかが相手を見下しているとか虐げているとかそんなんじゃなくても、一緒に暮らせば、子供を持とうとすれば、どうしても不平等、非対称になる。どれだけ当人同士がお互いを対等だと思っていても、Wの言う通り「それはそう」だし、Mも1回目の妊娠の時点で「既に僕たちどこか平等じゃないって感じてる」と不安を吐露しています。

ほら、ポスターの青い肺のイメージがだんだん二人に重なってきた………(催眠術ですか?)

そして非対称なこと以前に、肺とは動物の呼吸器官です。あたりまえ体操。ちょっと中学校の生物覚えてなくってほかの動物がどうだったか言い切れないんですが()、少なくとも人間は生きている限り肺という器官を用いて酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出します。これもあたりまえ体操

先ほどのあらすじでも触れた「5年間毎日飛行機でニューヨークまで行って帰ってきても、その二酸化炭素の排出量って子供一人持つより少ないの。1万トンのCO₂。それってエッフェル塔の重さだから」というWのセリフが思い浮かびますね。温室効果ガスによる地球温暖化はこの舞台の重要なトピックの一つです。人間が生涯にわたって吐き出すCO₂って、私たちが思っているよりずっとずっと多い。なんならこの舞台には反出生主義をほのめかすセリフもあります。「本当に地球のことを考えているなら子供は持つべきじゃない」だったかな。「本当に地球~なら、今すぐ息を止めて死んだほうがいい」みたいなことも言ってた気がする。もちろんそうはしなかったけれど。

 

あと私はまず『LUNGS』という題名自体が興味深くて「肺(LUNGS)ってどういう意図なんだろう?」と思っていたんです。稽古に入ってセリフを言ってみたら、場面によって実際に呼吸が浅くなったり深くなったり変化するんですよ。例えば興奮して呼吸が浅くなっている状態、私たちはそれを"LUNGS状態"と言ってるんですけど、呼吸にはその人の感情や状態が表れますよね。だからそれぞれの呼吸の状態、それが2人の間で合っているのか、合っていないのかも重要になる作品だと思いますし、そういう部分にも注目していただければと思います。

(奥村佳恵さんインタビュー、パンフレットより引用)

神山くんは最初「LUNGS」という単語の意味を知らなかったそうなのでタイトルについての彼のインタビューは割愛するんだけど、奥村さんの語る「LUNGS」というワードに込められたものも興味深かった。確かにスタンディングオベーションの最中に「やっと呼吸が支配から解放された」とは感じた。観ている側もLUNGSの世界観に引き込まれ、場面によって呼吸の深さが変わったように感じたのだ。私たちは呼吸さえこの二人に支配されていた。と私は感じた。

人の感情を表すにはよく鼓動の速さや顔の赤さが比喩として挙げられたりするけれど、確かに呼吸もその人の精神状態の映し鏡であると捉えられる。そんな意味で呼吸を司る肺をタイトルにしたのかもとも考えられる。

考えれば考えるほど深いタイトルで、ダンカン・マクミランすっげ~~~~~~~!!!と大の字にならざるを得ない。私はこんなタイトル付けられん(自分が書いてきた脚本のタイトルの絶望的センスを眺めながら)

 

待って。タイトルで2000字語ってる。ほんとに何万字書くつもりなの私。

 

私がこの「LUNGS」のタイトルを切り取るなら、その非対称性に着目したいと思った。「非対称な一対」としてのMとWに目を向けたい。

………やっとブログの方向性が見えてきた。方向性が見えないまま7600字も書いてたんですか?怖。

 

 

 

MとWの「非対称性」。もっとありふれた言葉で言えば、「二人の違い」。そこに焦点を当てながら、2パートに分けていろいろ書き殴っていこうと思います。

 

  • 「子供を産むこと」「子供を持つこと」に対しての認識

もちろん、この舞台の主題である。もうほんとに、ぜんっぜん違う。ぜんっぜん違うからこそこの舞台が100分も続くわけだ。そもそもMがWにこの話をし始めた場所がIKEAなんだけど、もうそこからWは呆れ返っている。まあ、観客も思ったよね、そんな話IKEAで並んでる最中にすなよって。

子供を作るって、神聖な奇跡でありながら同時に低俗な手段(セックス)をほとんどの場合で必要とするじゃないですか。だから、そんな大事でそんなはしたない話を公衆の面前で何ぶちかましとんねんと。Wも「今じゃない!」とキレてたし私も呆れて笑っちゃった。

でもMはMで、きっとこの話を切り出すタイミングをずっと探っていた。「じゃあいつなら(この話をして)いいの…!?」というセリフがあった(気がする)()。

これは「世の男性はみんなそうだよね」とバカデカ主語で括りたいのではなく、あくまで「私から見たMはそうだったんだよねえ」という"いち感想"にすぎないことを何度でも注釈しますが、Mはたぶん出産のキラキラした部分を大きめに捉えていて。「大変なのはわかるよ、でもそれ以上に子供を持ちたい、育てたい!僕ももちろん当事者として関わるよ」みたいなのが全身に滲み出てた。きっとそのへんの男性よりはMはちゃんと子育てに関わってくれるんだろうなとはこの舞台を通して思いはしたけれど、たぶん「どう大変なのか」Mは自分が思っている以上に分かってなかったと思うんだ。Wの力説(というかもはやまくし立て)も「分かるよ~(右から左)」というリアクションを取っていた。ように見えた。

なんかこんな言い方すると「Mは考えなしのアホ!」みたいな印象を皆様に押し付けてしまいそうだけれど、そうじゃない。だって、そりゃあそうなんだもん。Mの落ち度じゃない。

生理が来なくなってつわりが来てお腹はどんどん大きくなって胸は変形する。出産した後も母乳を与えなきゃ(ミルクでもいいけれど)。それってどうやっても女性しかできない。先ほども書いたけれど、ここを対称にするなんてできないんだ。極端な話、精子卵子に受精したらもう男性側は何もしなくても子供が育つ。Mが何もしないわけではないけれど、「それはそう」じゃないですか。実際私は父親にもう十何年も何もしてもらってないし(それはそれで別問題なのよ)

Wと同じようにMが妊娠を実感できることはない。だから少しでも介入したくて、実感したくて、妊娠検査薬を使うところも目に焼き付けたくなるし(「僕は全部見たいんだ!!」と言ってトイレまでついてくるのは引いたけど)、自分がWのお腹をさすっているときに赤ちゃんが蹴ると「蹴った!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」と大喜びする。これアドリブ入りのシーンだったんだけど日に日に過激さが増していってたな。SHAKEのキムタクの3倍ぐらい舌巻いてた日もあれば、勝龍拳をぶちかます日もあったし、円形舞台を飛び出して駆け回る日もあった。

2回目の妊娠、1回目の出産では手握りながら立ち会うし、M自身も「自分を台風の目のように感じることがある」みたいなこと言ってたあたり、その無力感、非対称性は自分でも感じながら少しでも彼女が背負うものを自分も背負いたいと思ってた。ように見えた。

 

 

  • 非対称でありながら映し鏡

パンフレットの神山くんインタビューと奥村さんインタビューの間に、青い背景の前に立つ二人それぞれの写真とともに、セリフが引用されている。

Wのセリフが、

骨がなく生まれても、足がなくても、顔がなくても構わない、ただの皮膚のかたまりがひたすら泣き叫んでいるのでも私は構わない

映画の「イレイザーヘッド」に出てくるみたいなのだとしても私のだから、

私たちのだから、私たちの一部だからだから私たちはそれを愛するようになるし、そうだよ、私たちは愛するようになるそれがたとえ、たとえどうでも。

であるのに対して、Mのセリフは

本棚から本を持ってくる。どの本にも君がアンダーラインを引いたあと。

余白には星が書いてある。君がハイライトした文をじっと見つめる。

その段落をもう一度読んでみる。

僕には見えない何がこの人には見えていたんだろう?

僕が理解していないことはなんだろう??

 

である。

凄くない?もう伝わるよね、MってめちゃくちゃWのこと好きだな。MはWのことを尊敬しているし、それでいてめちゃくちゃに好きなんだよな。たぶんWと一度別れた後、別の女性と付き合って婚約したときもきっとWのことを無意識下で好きだったんだと思うんですよ。ゴムもつけずに元カノ(となった)Wとやって、あとで「私とセックスしてるときもあなたは彼女を愛してたんだ!?」と詰め寄られるんだけど、"違うんだよ…たぶんこの人、どっちかというと「彼女と婚約を決めたときもWを思い出してた」ほうだよ………もはやこれは虚妄だけど………"と思って観てた。(憶測だよ!!!!!!!!!!!!!)

こうして文字に起こすとなかなかサイテーな男ですね。観劇直後の私のふせったーを見たらMにキレ散らかしていました。「自担と同じ顔じゃなかったら舞台上に殴り込んでた」とか書いてある。キレすぎだろ。

 

神山くんインタビューの前に引用されているMのセリフも、

転換点はとっくに超えていて今するべきは適応と軽減そしてあとはただもう心の準備。

洪水。干ばつ。ハリケーン。食糧難。水道民営化。大量絶滅。財政破綻。政情不安。戦争。

絶対的な大災害を回避し2030年までもつのか。

といろいろ語ってると思うじゃん?でもこれ(私の記憶が正しければ)(このセリフをMが話すとき、Wがハチャメチャに動いてたのが面白くてあやふやなんだよな)Wがリツイートした論文の概要をそのまま述べてるだけなんですよ。

Wは博士課程で後に博士になるし、いろんなことを考えられる。そして口が回る。そんなWをMは心から尊敬していて、なんなら鳴かず飛ばずのミュージシャンの自分にはちょっと釣り合わないんじゃないかと不安なくらいで。手放したくないから子供が欲しいし、養子じゃなくて自分とWの子供が欲しいし、Wの両親に「別の男の子供ならよかった」と思われてるんじゃないかと不安になって荒れるし、Wの持っている本もTwitterもWが書いた本も読む。

Wが自分の排尿音を誤魔化そうと水を流してとMに頼むけれど、「水流しっぱなしはダメだよ!」と環境のことを考えた言動をしてしまう。そして当のWに「ちょっとくらい地球のこと考えるのやめられない!?」と怒られる。不憫。

MはWの言葉を吸収したくて、理解したくて、全力で話を合わせるし、それを自然にこなせるようになるための努力も惜しまない。(「僕は君を見てる、全部君から受け取ってる!」)

Wに愛想を尽かされるきっかけとなったMの言動、私は流産した後に「またトライしよう」となんともデリカシーに欠ける表現を使ってしまったからだと思ってるんですが、これ最初に子供を作るセックスしようとした日にWが言ってた「私たち、トライしてる」という言葉をMが吸収したから出てきた言葉なんじゃないかと思うんですよ。憶測ですけど。

Wと別れた後は本も新聞も読まなくなるし世界で何が起きているのか把握しようともしない。Wと再会して近況を話しているとき、「何も考えない人たちに昔は腹を立てていたけれど、その人たちの気持ちが今はよく分かる」と言っていた。

う~ん、影響されすぎじゃん。すごいな。

まあもっと低俗な話をすると、Wからセックスのお誘いがあったらMはデロデロに鼻の下伸ばすし(後にも先にもあんなだらしない自担の顔見ることないだろうな)会議があってもすっ飛ばしてやっちゃう。「傷つけたい、少しだけ声をあげさせたい」「君の中に入りたくてたまらないことがある」「君をひらいてこじ開けて…」これ全部Mのセリフです。とんでもねえ舞台だな。

Mは「僕は君という陽子にとっての核」と自己をとらえていたけれど、君の世界の中心はWやないかい。とツッコみたくなった。(Wが自由に翼を広げるなかで、Mがそれを見守っているという構造は理解できるしそれもそうだなあとも思ったよ)

かといってWもWでどうしようもなくMを求めるときがあって。Mが会社勤めになった初日の夜に「寂しかった…」と抱きつくし、週に1回は一緒にランチしたいし、バックハグしてほしくなるし。Mと別れた後は誰とも付き合わないしほかの男性に近づこうと思ってもキスすらできなかった。完全に一緒ではないし対称ではないけれど、重さ(概念の話)はイコールで結べそうだなと思いましたよ。

 

 

………こんなところかな!

いや、書きたいことはまだまだあるんですよ。LUNGSを語るうえでは、自身のバイアスについてしっかり伝えることが最重要だと思うし、それって自分語りを少なからず含むじゃないですか。自分語りっていくらでもできるじゃないですか。だからLUNGSの話もいくらでもできるんですよ。なんて謎理論展開してんだよ。でもあくまで「ふたりの非対称性」にテーマを設定して話してたら11000字を超えたのでこの辺にしておきます。いやまだまだ書きたいんだよ…!「2回あるバックハグ、1回目は引っ付きに行ってたけど2回目は引き寄せてる感じがしてしんどかった」とか頭の弱いことも言いたいんだよ…!!!

 

これからもTwitterでちょこちょこLUNGSの話はし続けると思います。それだけの重みがある舞台だったから。息をしている間にこの舞台に出逢えて、本当によかったとしみじみ感じます。神山くん、こんな素敵な舞台に出逢わせてくれてありがとう!あなたのことが大好きで、心から尊敬しています!